【必読本】1つの物語を99個の視点から描いた『文体練習』(レーモン・クノー著)

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まだまだ寒い日が続きますね。

こんな季節はなかなか外出する気持ちも起こらないものです。

休日を家の中でなにもしないでダラダラと過ごしてしまうのももったいないので、私は少しだけでも本を読むようにしています。ほんの10ページを読んでみるだけで、違った一日になるように思います(かなりレベルの低い自己満足ですが)。

 

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というわけで、今回は、本の紹介をしたいと思います。

今回ご紹介するこの本は、私にとって大事な一冊。
最も影響を受けた本を1冊挙げるとしたら、この本を挙げるのでは、というくらいのレベルのものです。

 

その本は、レーモン・クノーというフランスの作家の『文体練習』というものです。レーモン・クノーといえば『地下鉄のザジ 』の方が有名かもしれませんね。

 

↓↓こちらの本になります↓↓
(有名な本なので知っている方はこの記事自体読み飛ばしてくださいね)

 

アイデアの複眼思考って覚えていますか?

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以前、「複眼思考の元相は梶井基次郎!?」という記事を書きました。
その中で触れた、複眼思考って覚えていますでしょうか?

記事で書いていた説明を引用します。

複眼思考とは、一つの視点にとらわれないで、複数の視点から物事を見つめること。

多面的な思考とか、多角的な思考とかも、いうことができると思います。

この視点を自由に行き来して、考えることこそが沢山のアイデアを出すための大切なポイントです。

その記事の中では「できるだけ多くの答えをだしてください。7の半分は?」という質問をしました。複眼思考で考えれば、3.5や7/2以外にも、いくつもの答えを見つけられるはずです。大げさにいえば、ほぼ無限に答えをつくっていけるというものです。

 

まさに複眼思考で書かれた本『文体練習』

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今回ご紹介する本は、レーモン・クノーの『文体練習』です。

簡単にあらすじを説明すると、主人公がバスに乗っているとき、首が長く奇妙な帽子をかぶった一人の男と別の乗客との口論を目撃する。そしてその二時間後に別の広場でまた同じ男が、「オーバーコートにもう一つボタンをつけるべきだ」と服装のアドバイスを受けているところに出くわす、という、どうでもいい出来事がストーリーです。しかし、この本が『文体練習』というタイトルのようにこのどうでもいい出来事を、なんと99通りの書き方で描いているのです。

松岡正剛の千夜千冊のなかで「編集稽古の原典である。編集工学のためのエクササイズのバイブルである」と絶賛されています。

 たったこれだけのことである。これを第2番では、わざとくどくどと書く。第3番ではたった4行にする。第4番では隠喩だけで書く、第5番では出来事の順番を逆にして倒叙法で書く、というように、次々に文体を変えてみせていくのである。

こうして99番では、5人がカフェで雑談をしていると、そのうちの一人が「そういえばさっきバスの中でね」というぐあいに、会話の中にさりげなく例の出来事が入ってくるというふうになり、さらに付録として俳諧の一句のようなものが提示され、それで文体練習全体がおわるというふうになっている。「バスに首さわぎてのちのボタンかな」。

松岡正剛の千夜千冊より
http://1000ya.isis.ne.jp/0138.html

アイデアシンキング的『文体練習』の楽しみ方

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99の文体で書かれた本を読んだ後は、100以降の文体を書いてみることでしょう。ということで、やってみました。書き始めたら楽しくなってしまい8つの文体を書いてしまいました。

まず、原文を読んでください。こちらを、いろんな文体や視点で書いていきます。

 

<原文>

S系統のバスのなか、混雑する時間。ソフト帽をかぶった二十六歳ぐらいの男、帽子にはリボンの代わりに編んだ紐を巻いている。首は引き伸ばされたようにひょろ長い。客が乗り降りする。その男は隣に立っている乗客に腹を立てる。誰かが横を通るたびに乱暴に押してくる、と言って咎める。辛辣な声を出そうとしているが、めそめそした口調。席があいたのを見て、あわてて座りに行く。
二時間後、サン=ラザール駅前のローマ広場で、その男をまた見かける。連れの男が彼に、「きみのコートには、もうひとつボタンをつけたほうがいいな」と言っている。ボタンを付けるべき場所(襟のあいた部分)を教え、その理由を説明する。

『文体練習』レーモン クノー (著),朝比奈 弘治 (翻訳)より

 

それでは、少し恥ずかしいですが、私が行ってみた文体練習を公開します。サラっと読み飛ばしてみてください。

 

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文体練習100:ニトウヤスヒサの文体で

混雑する時間だった。S系統のバスは、渋滞の中をゆっくりと進む。車内も、人で溢れていた。停留所に着くたびに、客が乗り降りする。二十六歳ほどの男が、隣に立っている乗客を咎めている。
「誰かが横を通るたびに乱暴に押してくる」
その声は、辛辣な声をだそうとしているが、そのような声を出すことができず、めそめそした口調に聞こえる。リボンの代わりに結んだ紐を巻いている、ソフト帽が印象的だった。彼は、席があいたのを見て、すかさず座った。
二時間だった。サン=ラザール駅前のローマ広場で、ソフト帽の男をまた、見かけた。連れの男が彼に言った。
「きみのコートには、もうひとつボタンをつけたほうがいいな」
そういうと、連れは襟の開いた部分を指差し、そこにボタンを付けたほうがいい理由を説明した。

 

文体練習101:クドク書く

バスが混雑する時間といって、思い浮かぶのは、朝のラッシュや、会社勤めの人たちの帰る夕方の時間だろう。しかし、もう一つバスが混雑する時間がある。昼の十二時の少し前。大体十一時三十分あたりにバスに乗ると、いつも混雑している。友人とのランチに向かう人、仕事で会食に向かう人、それから早めにランチを済ませて買い物に出かけるご婦人方もいるのだろう。バスの中は、学生を除く様々な人たちでごった返すのだ。この繁華街に向かうS系統のバスは、特にそうだ。観光地を周遊するA系統は、ここまでは混雑しない。バスの混雑は、電車の混雑に比べて不快なものだ。急にハンドルを切ったり、ブレーキを踏んだり、つり革に掴まっていても、体を真っ直ぐに保っているのは大変だ。運転手も乗客のイライラが伝染するのか、すいている時間よりも運転が荒い気がする。

 

文体練習102:夢

こんな夢を見た。混雑するS系統のバスに乗っていると、ある若者が隣に立っていた男にキレていた。強い口調で怒りたかったのだろうが、「乱暴におしてくるんです」という声は、めそめそしていて滑稽だった。席があいて、彼はすかさず座った。彼の顔は見えなかったが、かぶっているソフト帽は、リボンの代わりに編んだ紐を巻いていて、弱々しさを強調している気がした。
そんな彼と、二時間後、サン=ラザール駅前のローマ広場で再会する。連れの男が、きみのコートには、もうひとつボタンをつけたほうがいい、と突然いった。あまりに突然のことで、なぜそういうのか気になったが、連れがボタンを付けるべき場所を教えているところで、目が覚めた。枕元の時計に目をやると六時前だった。まだ起きるには時間があるので、もう一度眠ったが、その続きは見ることができなかった。

 

文体練習103:ちょっと昔のギャル風

っていうか、混んでるバスってマジウザイくね?今日もさぁ、S系統に乗ってたときにぃ、いきなりおっさんがキレるし。乱暴に押してくる、みたいな。こと言ってんだけど、混んでるんだったらしょーがなくね、って思うわけ。みんなガマンしてんだから、おっさんもがまんしろってんの。ガタガタいうし、バスんなか空気悪くなるし、サイテー。しかも、超ウケルのは、その声が超弱々しいわけ。お前、女かって!めそめそすんじゃねーよってくらい、か細い声だしてるから、笑いこらえるのに必死なわけ。しかも、なんていうの?フニャフニャした帽子っていうか、ハットってやつかぶってんだけど、リボンがとれちゃったのか、そのかわりに編んだ紐をまいてるの。お前は、小公女セーラかって突っ込んでやりたかったよ。
でさでさ、それからカレと会ってごはん食べた後に、駅前の広場でまったりしてると、その帽子がいたわけ。で、バスの話はカレに言ってあったから、カレも盛り上がっちゃって、ひとつからかってきてやるよ、って。でも、私止めようとしたんだけどさ、いきなり帽子の前に走っていて、「おしゃれっすねー」って褒めまくってるの?で、カレさ、いきなりピーコが降臨してきちゃったみたいで、帽子のコートも、おしゃれっすねーって、ほめて、そのあとに、でも、これボタンをもうひとつつけるとマジもっとよくなるっすよ。とかいいながら、襟のあいたところを指さしたりして、こうするとさマジバランスがよくなるから絶対イイっすよ、みたいな。帽子は、ずっとあっけに取られてるんだけど、なんせ超弱々しいから、なんていうのバンピだっけ?鹿の子どもが生まれてきた時みたいに、内股でうつむいて、うっとーしー!!って思いながら、横でゲラゲラ笑っちゃった。そしたら、私の方を見て、マジ睨みつけてきたら、キモって大声だして、カレの腕つかんで駅にダッシュしちゃった。でも、帽子に睨まれたのが、マジまだなんか腹立つから、消えろ童貞って叫んじゃった。でさ、カレがまぁ、童貞は言い過ぎだな、なんて言いながら二人で笑ったわけ。

 

文体練習104:ぐちっぽい運転士

木曜日は、嫌いだ。S系統が担当だからだ。S系統は、とりわけ混雑が激しい。道はもちろん、車内も。混雑したバスは、嫌いだ。アクセルを踏んでも、老人が腰をあげるようにしか発車できない。「よっこらしょ」そんな感じだ。「よっこらしょ、よっこらしょ」、どうしても急発進になる。混雑した車内の人たちは、前後に揺れる。たぶん、乗り心地は最低だろう。停留所Tから停留所Uまでの間だったから午前11時13分ごろだったと思われる。若い男が、急に怒りだした。乗り合わせた乗客に、文句をつけている。その声は、ひどく弱々しいものだったので、大事にはならないだろう、と思えたが私の心中はおだやかではなかった。こういう揉め事は、最終的に運転が荒いからだろう、と私にとばっちりがくることが多いのだ。私は、その若い乗客が降りるまで、できるだけ慎重に運転をした。そして、耳は後ろの乗客の方に集中しながら。Z駅でその男は降りた。終点だ。降りる様子を見ると、首がひょろがない、風変わりなソフト帽をかぶっていた。
なんだか私は、ほとほと疲れてしまい、午後のシフトを交代してもらい家に帰って休むことにした。

 

文体練習105:スパイ

事件が起こったときに、その当事者に注目するのではなく、その周囲を観察する。それこそが、観察力というものだと思う。誰もの注目を引くことを見てばかりいるのなら、一般の人とは変わらない。私? 私は、そういう観察力が必要とされる仕事をしているの。なんの仕事かって? そんなことは、まだ知り合って間もないあなたに教える義理はないわ。
そういえば、昨日、こんなことがあったわ。S系統のバスに乗っていると、ある若い男が突然、怒りだしたの。すごく神経質そうな男だったわ。私のプロファイリングによると、歳は二十六。首がひどく長くて、細かったから、運動歴はなし。ソフト帽のリボンをところに編んだ紐を巻いているところを見て、ひと目でわかったわ。名門A家の子息だということを。彼は「乱暴に押してくるんです」と言っていたわ。か細い声は、名家の出身だということを物語っていたわ。彼の隣にいた大きな男が、彼を押していたけれど、黒幕は別にいる。私は、そう確信して辺りを見回したわ。すぐに見つかった。目付きで、すぐにわかってしまうの。取り分け特徴のない男、そいつが何かの狙いで、ソフト帽の彼を、落とし入れようとしている。私は、特徴のない男を尾行したわ。職業病ね、クライアントでもないのに。
私の仕事? だから、まだ教えられないっていってるじゃない。で、二時間後よ。サン=ラザール駅前のローマ広場で、事件は再び起こったの。また、彼は刺客を仕向けたの。ソフト帽を見かけるやいなや、真っ直ぐに彼に向かっていったの。私は、刺客がナイフを出すのを察して、これは止めるしかないと思い思い切り走ったの。そして、どうやって止めたと思う?想像がつかないでしょう。力で? そんなの女の私にはムリだわ。向こうはプロよ。だから、とにかく周囲の注目を集めることに全力をかけたの。
思いっきり転んだの。しかも、スカートがめくれてパンツが見えるほどにね。そして、きゃぁ、って大きな声をだすの。女性のきゃぁ、って声がする方向に目を向けない男はいないわ。ローマ広場にいる全ての人が私のいる辺りに注目したわ。刺客も黒幕も、きっと参ったと思うわ。慌てて、彼のコートを褒めたり、こうしたらもっとよくなる、なんて関係ない話をソフト帽にふっかけて、そそくさと逃げていったの。ほら、見てこの傷。これで、ひとりの命を救ってあげたのよ。
仕事? あんた、なんど私に同じこと、言わせる気なの?

 

文体練習106:フェティシズム

男の首が好き
細ければ、細いほど
男らしさの象徴が、首の太さだとしたら、
それとは対極のものがすき
三つ葉が、芽生えるように頼りのなく
青白く細長い首。
その首の内側にはりつく声帯から
発せられる声は、細ければ細いほどいい
これは、恋だと思った
S系統のバスの中、隣には付き合っているカレシ
でも、私の気持ちは、抑えつけることができない
細長い首を、絞めつけてあげたい
息も通らないほど、強く

私は声をかけずに、
私は声をかけられずに、
バスを降りる。
さようなら、細い首
さようなら、青い首

しかし、赤い糸はあるのだ
二時間後に、細い首と再会する
心臓が、喉元まで上がってきて、
息が浅くなった
その後、すぐに、見えないはずの赤い糸を
切られる瞬間に出会う。
パチンと、音がするんだ
細い首の、憎悪に満ちた
鋭い目が私を刺す
赤い糸を切ったのは、隣にいた
太い首のカレシだった

 

文体練習107:つり革

引っ張られるのには、もう慣れている。体重をかけられるのも、乱暴されるのにも、もう慣れた。毎日、同じ繰り返しだ。変化のない日々、それが俺の全てだと思っていた。そんな俺にも、感情はある。まぁ、本当のことを言えばないのだけれど、俺の中ではあると思っている。嫌いな人もいるし、好きな人もいる。仲間とは、いつも同じ距離をとって、離れているため、人間のほうが親近感がある。だから、俺には感情があるのだ。
混雑する時間だった。俺に、嫌いなタイプの男が手を掛けていた。掛けているといっても、小指一本で絡ませる程度、バスが揺れるたびに、指が外れる。ぎゅっとつかまれるのはいいけれど、そういうのは嫌いだ。俺の存在意義に関わる。隣には、ソフト帽を被ったキレイに首が生えた男がいた。彼は、きゅっと仲間のつり革を握っていた。彼が、俺のところに来てくれればいいのに、とずっと思っていた。また、バスが揺れた。そして、また俺の男の小指が外れる。男の体が揺れて、ソフト帽の彼の体を押す。不快だろう、と思っていたところ案の定、ソフト帽がキレた。仕方ない、俺だって同じ状況だったらキレる。だから、気の毒に思ったよ。弱々しい、怒り慣れていないだろうめそめそした口調が、より哀れみを増長していた。ソフト帽は、席があくとそそくさとそこに座った。それ以来、彼をみていない。いまだに、キレイに三つ編みにされた彼のソフト帽の紐を思い出すのだ。彼は、元気にしているだろうか。

 

あなたも『文体練習』いかがですか?

さて、いかがでしたでしょうか?
自分も書いてみたいと思っていただけたら嬉しいです。
私の書いた文体練習のクオリティは置いておいて、アイデアを出していくうえでも、編集をする人にとっても必読の本だと思います。現在、2つのバージョンの翻訳がでていますがどちらも素晴らしいです。私は、どちらかといえば前からでている朝比奈さんのものが好きですが。翻訳もひとつの文体練習だと思うと、読み比べてみるのもいいかもしれませんね。

 

↓↓こちらが昔からある朝比奈さんによる翻訳↓↓

↓↓こちらが新しく出た翻訳版です↓↓

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